米FDAガイダンス解説:GLP適用試験報告書 英訳作成時のポイント
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2023年11月に、アメリカ食品医薬品局(Food and Drug Administration、略称:FDA)よりGLP適用試験報告書の英訳に関するドラフトガイダンス(原文:Translation of Good Laboratory Practice Study Reports: Questions and Answers Guidance for Industry)が発行されました。
本ガイダンスはドラフト段階ではありますが、発行を受け対応の準備を進めている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
この記事では、本ガイダンスの概要を解説し、GLP試験報告書の英訳作成に関してFDAが推奨するポイントを整理します。
日本のおくすりが外国でスピーディに承認されるには、正確な翻訳も重要!FDAはどのようなところを重視しているのかな?
ガイダンス発行の背景と目的
GLP(Good Laboratory Practice)は、医薬品申請資料の信頼性を確保することを目的として、非臨床試験における試験施設の設備、運営管理の側面から試験実施時の遵守基準を定めたものです。
米国はもとより、日本を含むOECD加盟国でGLP制度が定められていることから、非英語圏に拠点を置く試験施設で試験が実施された場合、その報告書は現地語で作成され、米国での申請用に英訳されることになります。英訳された報告書をもとに審査をするFDAとしては、試験結果が正確、かつ、完全に英語化されることが非常に重要であるとして、翻訳の正確性・完全性担保の推奨手順を示すために、本ガイダンスが発行されました。
ガイダンスの位置づけ
本ガイダンスはFDAの推奨事項を示すものであり、拘束力はありません。またGLP適用試験の報告書に限定されています。ただし、本ガイダンスの考え方はGLP以外の試験報告書の英訳にも有益であるとして、将来的な他試験への準用も示唆しています。
ガイダンスに書かれていること
英訳の正確性と完全性の確保はマスト、そのためのおすすめ手順を示す、というFDAのスタンスを理解したところで、具体的にどのような推奨事項が記載されているのか、詳しく見ていきましょう。
本ガイダンスには、Q&A型式で以下の9つの推奨事項が記載されています。
- 「翻訳されたGLP試験報告書」の定義と翻訳物に求められる要件
- 対応する翻訳者に求められる資格要件
- 翻訳陳述書(translation statement)の作成
- 翻訳手順を書面化する必要性と記載事項
- 翻訳された最終試験報告書の保管方法
- 最終試験報告書が改訂された場合の対応と保管方法
- 翻訳すべき範囲
- 完全性チェックの実施
- 翻訳されたGLP試験報告書への試験責任者等「本人による署名」の要否
大きく分類すると、「要件:翻訳物と翻訳作業に直接関わる者」、「プロセス管理:作業プロセスとその記録証跡」、「文書管理:試験報告書とその英訳の保管やフォーマッティング」の3点が盛り込まれています。
英訳作成時に必要なアクション
前述の推奨事項のうち「英訳作成」に関する具体的な手順を中心に、スポンサー/試験施設が本ガイダンスに準拠するために必要なアクションを整理します。
1. 翻訳手順書の策定
まずは翻訳作業の手順書が必要です。
「4.翻訳手順を書面化する必要性と記載事項」のセクションでは、翻訳手順が書面化され、その手順書は実際に翻訳を担当する翻訳者とも共有し、遵守することが推奨されています。
[手順書に記載すべき事項]
- 翻訳者の資格要件
- 翻訳物に求められる要件(文書作成の流れ、正確性の検証、完全性チェックなど)
ガイダンスでは、英訳時に用語・表現のブレが発生することはある程度許容するものの、オリジナル言語の内容を正確かつ完全に反映しているものであることを前提とする、としています(1.「翻訳されたGLP試験報告書」の定義と翻訳物に求められる要件)。
手順書にはあれこれ盛り込みたくなるけど、情報が整理されていないと伝わらないよ。どう書いたら複数の翻訳者が同じ認識でガイダンスに準拠した英訳を作成できるか、読み手への配慮を意識しよう!
2. 資格を満たす翻訳者への依頼
「2.対応する翻訳者に求められる資格要件」に記載されている担当翻訳者の要件は、「英語およびオリジナル言語の教育、訓練、経験を有し、医学・科学文書の英訳に精通していること」とされています。なお、この資格要件は前述の翻訳手順書に明記することも求められています。
3. 完全性チェック(completeness check)の手順決定
英訳の完全性を担保するため、手順には第三者による確認プロセスを組み込みます。
「8.完全性チェックの実施」には、翻訳後の完全性の確認プロセスとして「誰が何をどのようにチェックするか」が記載されています。
- [誰が]
翻訳者とは別の、スポンサーまたは試験施設担当者。科学および医学分野の用語や英語に堪能である必要はない。 - [何を]
報告書の体裁、表形式の内容、図(データのグラフ表示) - [どのように]
誤りが見つかった場合は、担当した翻訳者に戻し、レビューと修正を実施する。
修正が発生した場合、再度、完全性チェックを実施する。
完全性チェックのプロセスは記録され、試験記録や報告書とともに保管する。
4. 翻訳陳述書(translation statement)の書式準備
これらの手順が確実に実施されたことを記録するための翻訳陳述書を作成し、FDA申請時に添付します。
「3.翻訳陳述書(translation statement)の作成」では、陳述書に記載する事項が列挙されています。
- 翻訳を担当した者の氏名と所属
- 翻訳者の資格
- 翻訳を実施した日付
- 担当翻訳者による署名
- 翻訳物が、現地語で作成された報告書の内容を、明確、正実かつ完全に反映した内容であることの声明
なお、この翻訳陳述書は、翻訳された試験報告書の表紙より前に配置すること、とされています。
翻訳センターでの対応
本ガイダンスはスポンサーと試験施設内の担当者が翻訳を対応したケースのみを対象としており、翻訳会社に英訳を依頼する場合の対応についての言及はされていません。
本ガイダンスに準拠した翻訳をご希望のお客様には、翻訳センターでの標準対応の内容として、以下をご案内しています。
- 翻訳手順書の策定:
当社の翻訳手順書は、本ガイダンス記載事項に概ね対応しています。個別のご指示がある場合は、作業開始前にその内容を精査、双方すり合わせのうえ、合意事項を遵守します。 - 資格を満たす翻訳者への依頼:
当社の翻訳者採用基準はFDAが推奨する要件をクリアしています。 - 翻訳陳述書(translation statement)の発行:
翻訳者個人による書面の発行・署名ではなく、当社所定の書式に社内管理者が署名した「翻訳証明書」を発行します(有償)。事前に翻訳証明書の雛形をご確認いただき、書式や内容のすり合わせを行います。 - 完全性チェックの実施:
第三者による確認プロセスのうち、「翻訳者への差し戻し」および「プロセスの記録」の結果共有は原則非対応としています。「プロセスの記録」をご希望の場合は、オプションで「QCサービス」をご検討ください。
本ガイダンスが「推奨事項」であることから、上記以外の対応を希望されることもあるかと思います。対応の範囲や程度について、まずはお気軽にご相談ください。
まとめ
いかがでしたか?本ガイダンスはドラフト版とはいえ、FDAが英訳の「正確性と完全性」を重視していることがよくわかります。この記事では、これら2つをどのように担保するか、また翻訳センターでの対応内容についてご紹介しました。
なお翻訳センターでは、本ガイダンスへの対応に限らず、各種申請資料の翻訳に付随する翻訳証明書の発行にも対応しています。お気軽にお問い合わせください!
ここまでお読みいただきありがとうございました。
翻訳センター インサイドセールスチーム
とらんちゃん
「とらん」だけに「トランスレーション(翻訳)」が得意で、世界中の友達と交流している。 ポケットに入っているのは単語帳で、頭のアンテナでキャッチした情報を書き込んでいる。
- 生年月日1986年4月1日(トラ年・翻訳センター創業と同じ)
- モットー何でもトライ!
- 意気込み翻訳関連のお役立ち情報をお届けするよ。
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